約 1,077,096 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1845.html
小瓶の中の鮮やかな紫色の香水。机の上に置かれたその香水を見やる。わたしが自分のために作った香水。 見た目の鮮やかさに匂い、全てを自分にあわせて作ったまさに特製の香水だ。 今まで作った香水の中で一番気に入っていて、自分のために作ったものなので当然売りに出したことも無い。 この特製の香水を作るのには、随分と試行錯誤したものだと、香水を見ながら思い出に浸る。苦労したが、その苦労すら楽しかった。 できた時の喜びは今まで作ってきたどの香水より大きかった。思い出しただけでも、自分によく作ったと褒めてあげたくなる。 そして今、自分はこの香水に並び匹敵するような香水を作ろうとしている。どうしても作らなければならないと思っている。 机の上に置いてあった香水をしまうと、代わりに香水を作るための材料を取り出す。そして無残に短くなってしまった髪を軽くなで上げる。 自慢だったこの髪も、今ではまるで男の髪のような短さだ。 「ギーシュ……」 思いの人の名前を呟きながら香水作りに取り掛かる。大丈夫。自分ならきっと作ることができる。わたしはモンモランシー。『香水』のモンモランシーだから。 使い魔は穏やかに過ごしたい外伝『バッカスの歌』 ギーシュと付き合っていた頃、自分はいつもイライラしていたと思う。並んで街を歩けば自分以外の女を見つめる。酒場で給仕の娘を口説く。 デートの約束を忘れ、他所の女の子のために花を摘みに行く。なんとう浮気性だろうか。わたしという彼女がいながら。イライラするのも当然だ。 しかし、わたしは耐えた。イライラしながらもギーシュの浮気性を耐えた。何故なら、本当に浮気をしたことはなかったからだ。 表面上そんな浮気性を演じていて、心の中ではわたしだけを愛しているに違いないと信じていていた。浮気性に心配を持っていたため、そう信じたかった。 ……そして、そんな自分の思いは裏切られた。 春の使い魔召喚の儀式の次の日、昼食の席で騒ぎがあった。別に騒ぎなんてよくあることで気にすることはない。ただ、その日の騒ぎはわたしにも関係があった。 「おお?その香水は、もしやモンモランシーの香水じゃないか?」 自分の名前が出たことに驚き、騒がれている方向を見ると、そこにいたのはギーシュとその友達、そしてゼロのルイズの使い魔だった。 「そうだ!その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 ギーシュのすぐ横にはたしかにわたし特製の香水が置かれていた。わたしが自分の手でギーシュにプレゼントしたのだ。見間違えるはずが無い。 「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーとつきあっている。そうだな?」 その問いをギーシュは、 「違う」 否定した。何故否定するのだろうか?香水が自分とつきあっている決定的な証拠になるじゃない!肯定できない何かがあるの? もしかしてそれは、わたしが懸念していることなんじゃ…… 「いいかい?彼女の名誉のために言っておくが……」 ギーシュが何かを言おうとしたとき、栗色の髪をした一年生が彼の元へ来た。そしてそれを確認した時、わたしは自分の懸念が的中していたことを理解した。 「ギーシュさま……。やはり、ミス・モンモランシーと……」 一年生はボロボロと泣きながらギーシュに喋りかける。 「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」 ギーシュの言葉に耳を傾けもせず、一年生はギーシュの頬を引っ叩く。 「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ!さようなら!」 一年生が去っていくのを見つめながら、自分も立ち上がる。そしてギーシュの元へ向かう。ギーシュがこちらに気がついたのわたしの方を振り向く。 ギーシュの顔にはきれいな赤い手形がついている。 少し前からギーシュの様子がおかしいとは思っていた。急に予定をキャンセルしたり、何か隠れてコソコソしたりと。もしかしたら浮気かもしれないと懸念していた。 きっとそうじゃないと、ギーシュは浮気なんかしてないって信じていた。信じるしかなった。でも、ギーシュは浮気をしていた。ギーシュはわたしを裏切った! ギーシュの席に辿り着く。体に段々と熱が篭っていくのを感じる。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」 「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね」 何も感情を込めずに、浮気したという事実を自分に確認させるように呟く。 「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれよ、僕まで悲しくなるじゃないか!」 顔には出していないつもりだったけど、どうやら自分が思っている以上に怒りを感じているらしく、無意識に顔に出ていたようだ。 その事実を確認しながら、机の上の香水を手に取る。そして、中に入っている香水をギーシュの頭の上からかける。 この香水は、付き合い始めた頃にギーシュに渡したものだ。あのときギーシュは自分のことを『愛してる』と言って、キスをした。 でも、全部嘘だった。ギーシュはわたしを愛していなかった。ギーシュは女であれば、誰でもよかったのだ! 香水が小瓶から流れ出るにつれ、さらに怒りが高まっていく。自分の中のギーシュへの思いが全部怒りに変わっていく。小瓶の中身は無くなり、怒りは頂点に達していた。 わたしのこと『愛してる』って言ったのに。『愛してる』って言ったのに!! 「うそつき!」 全ての思いをその一言に込め、わたしはその場を駆け足で立ち去った。そして、そのまま自分の部屋へと走り駆け込むと、鍵にロックをかけた。 その瞬間、それで全ての力を使い果たしてしまったかの如く、その場に座り込む。既にギーシュへの怒りなど無くなっていた。 その代わり、浮かび上がってきたのは悲しみだった。さっきの一年生のように、あるいはそれ以上に涙が溢れ出してくる。 あるのはギーシュへの怒りだけだったはずなのに、どうしてこんなに悲しんでいるのか?どうしてこんなに涙が溢れ出てくるのか?わたしは何を悲しんでいるのか? わからない。わからないけど、悲しい。涙が止まらない。何もわからないまま、わたしはずっと泣き続けた。涙が止まったのは深夜になってからだった。 次の日、ギーシュがゼロのルイズの使い魔と決闘をして、逆にギーシュが負けたことを知った。 聞いた話によれば手に穴が開いて、杖を折られ、顔を踏みつけられるなど、相当足蹴にされたらしい。わたしはそれを聞いて、何も思わなかった。 いい気味だとか、大丈夫だろうかとか、そのようなことを何も思わなかった。ただ、ギーシュが足蹴にされたことをありのまま受け止めた。 それを実感したとき、自分はもうギーシュのことを好きでも嫌いでもなく、なんとも思っていないということを理解した。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2047.html
絶対絶命の状況で救いの声が掛かる。 「ミスタ・コルベール実家に連絡とは、いささかやり過ぎではないかね」 オールド・オスマン! 部屋の入り口にオールド・オスマンが立っていた。 「しかし、ミス・ヴァリエールは規則を破り・・・」 「ミスタ・コルベール」 コルベール先生の話をオールド・オスマンが遮った。 「は、はい」 「今、君がこうして暢気に授業や研究が出来るのは、ミス・ヴァリエールの お蔭と言っても過言では無いのじゃよ」 「なんですと!?」 コルベール先生から驚きの声があがる。 「先の任務でミス・ヴァリエールはそれだけの働きをしたのじゃよ。性質上 誰彼かまわず自慢出来る事の無い任務のな。その任務で失ってしまった 使い魔を侮辱され怒りに囚われ魔法を使ってしまった・・・ 一体誰が彼女を責められようか」 ・・・使い魔・・・プロシュート・・・ 「ミス・モンモランシー使い魔はメイジの半身じゃ、その失ってしまった気持ちを 察し、どうかミス・ヴァリエールを許してはくれんかね」 オールド・オスマンはモンモランシーに頭を下げた。 まさか学院長がわたしの為に頭を下げるなんて・・・ だが、わたしよりも、モンモランシーの驚きの方が大きかった。 「あ、頭をお上げください、オールド・オスマン。何も知らずに無責任な事を 言ってしまった私も悪いのですから」 「そうか許してくれるか。これで、この話はお仕舞いじゃ」 オールド・オスマンの決定にコルベール先生が非難の声をあげる。 「しかし、それでは他の生徒に示しがつきません」 「そんなもん、罰当番で充分じゃわい」 「しかし・・・」 コルベール先生は納得できないようだ。 その様子をみてオールド・オスマンは声を掛ける。 「のう、ミスタ・コルベール。人は誰しも間違いを犯してしまう、大切なのは 責める事ではなく赦す事だとはおもわんかね?」 「・・・わかりました。学院長の決定に従いましょう」 先生から先ほどの剣呑な雰囲気がなくなったが、哀しい表情をしていた。 「今度こそ、この話は終わりじゃ。ミス・ヴァリエール」 オールド・オスマンに声を掛けられ、わたしの中に緊張が走る。 「はっ、はい」 「旅の疲れはいやせたかな?思い返すだけで、つらかろう。だがしかし、 おぬしたちの活躍で同盟が無事締結され、トリステインの危機は去ったのじゃ」 優しい声で、オールド・オスマンは言った。 「そして、来月にはゲルマニアで、無事女王と、ゲルマニア皇帝との結婚式が 執り行われることが決定した。きみたちのおかげじゃ。胸を張りなさい」 確かに手紙は取り戻した。でも、わたしの勝手な行動によりプロシュートを 死なせてしまった・・・とても胸を張ることなんて出来ない。 わたしが黙って頭を下げているとオールド・オスマンは一冊の本を差し出した。 「これは?」 「始祖の祈祷書じゃ」 「始祖の祈祷書?これが」 たしか王室に伝わる伝説の書物。国宝のはずだった。どうしてそれを オールド・オスマンが持っていて、わたしに差し出すの? 「トリステイン王室の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を 用意せねばならんのじゃ。選ばれた巫女は、この『始祖の祈祷書』を手に、 式の詔を詠みあげる習わしになっておる」 「は、はぁ」 そんな事するんだ。 「そして姫は、その巫女に、ミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ」 「姫さまが?」 「その通りじゃ。巫女は、式の前より、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち 歩き詠みあげる詔を考えねばならぬ」 「えええ!詔をわたしが考えるんですか!」 「そうじゃ。もちろん、草案は宮中の連中が推敲するじゃろうが・・・。 伝統というのは、面倒なもんじゃのう。だがな、姫はミス・ヴァリエール、 そなたを指名したのじゃ。これは大変に名誉なことじゃぞ。王族の式に 立ち会い、詔を詠みあげるなど、一生に一度あるかないかじゃからな」 心の何処かで、こんな事をしている場合じゃないとさけぶ・・・ いや違う、これはチャンスよ。アルビオンで手柄を立てたが、その成果は誰にも 言えない・・・家族にさえも。 匿名の情熱なんていらない・・・ わたしは歴史に名を残すと決めた。これは、その第一歩よ! わたしは、きっと顔をあげた。 「わかりました。謹んで拝命いたします」 わたしはオールド・オスマンから『始祖の祈祷書』を受け取った。 これが『始祖の祈祷書』・・・ トリステインは、なんとしてでも余の版図に加えねばならぬ。 あの王室には『始祖の祈祷書』が眠っておるからな。 聖地に赴く際には、是非とも携えたいものだ。 頭の中に響く声・・・ 聞いたことも無い声なのに・・・ ・・・どうして、こんなに胸騒ぎがするの・・・
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1398.html
アルヴィーズの食堂。一日の勤めを終えた貴族たちが会話を楽しみ和やかな雰囲気で夕食を取る最中 ルイズは唇を尖らせ、不満気な表情で前の席に座る者を見つめていた。 「それで『土くれ』のフーケって盗賊なんだけど…」 「貴族の家ばかり狙うなんて大胆ね。怖くないのかしら?」 「フーケもメイジよ。たぶん没落した貴族ね」 ルイズはトリッシュと楽しげに会話をするモンモランシーを見て嫉妬していた。 苛立ちを紛らわそうとサイトを蹴ろうと思ったが、主人の命令を聞かないダメな使い魔を躾けようと食事抜きで 部屋で留守番させていた事を思い出して尚更苛立った。 (なによ!朝だって!お昼だって!色々喋ってくれたのにっ!!) ルイズはトリッシュに構って欲しくて何とか話しかけようとしているのだが、学院に入学してから一年が経つも 友人らしい者は一人も出来ず、周りには魔法が使えない事をからかってくる者か陰口を叩く者しか居なかった。 そんな者たちに寂しいからと言って自分から話しかける事などルイズのプライドが許さない。 その結果、同年代の子と何を話せばいいのか解らないのだが、それでも何とかして友人関係を築きたい、 落ちこぼれの自分を馬鹿にしないトリッシュと仲良くなりたいと思っていた。 (う~なにかキッカケがあればいいのよ…それなら私だって…) 何か話すキッカケが無いかと色々と考え、ある事に気が付いた。 (そうだ!すっかり忘れてたわ) 包帯の巻かれた自分の手を見て、朝も昼もトリッシュは手を怪我した自分を気遣って食事を手伝ってくれた事を 思い出してルイズはニンマリと笑い、ナイフとフォークを使ってメインディッシュに取り掛かる。 既に傷は治っているのだが、構って貰えたのが嬉しかったのでルイズは包帯をそのままにしておいたのだ。 (うふふ。これに気付くなんて私って天才じゃないかしら) 頭の中でトリッシュにあ~んされる光景を浮かべながら牛ヒレのステーキにナイフを突き刺した。 カチャカチャと音を立てて肉を切る。トリッシュは気付いていない。 今度はぎこちなくナイフとフォークを操ってみる。トリッシュは気付かない。 両方やってみる。やはり気付かない。 (音が小さかったかしら?) ガチャガチャと音を鳴らしながら肉を切る。気付いてくれない。 ナイフとフォークを頭の上で鳴らしながらチラチラ見てみる。全然気付いてくれない。 肉におもいっきりフォークを突き刺す。ステーキを載せた皿が割れて漸くこちらを見てくれた。 「ちょっとルイズうるさいわよ!食事くらい静かにしたらどうなの!」 トリッシュじゃなくてモンモランシーが反応した。 「うるさいわね!私は手を怪我してるのよ!お皿くらい割れるわ!!」 モンモランシーに怒鳴り返してルイズはトリッシュをチラチラ見る。何故か首を傾げていた。 「怪我、もう治ったんじゃないの?」 (なっ!なんで知ってるのよ!?) 動揺するルイズを見てモンモランシーがニヤニヤ笑う。 「彼女の傷を治したときに見といたのよ。ザンネンね~」 「なな、なんで余計なことしたのよ!べっ別に甘えたいなんて思ってないんだから!」 「あら?甘えたかったの?胸と同じで子供みたいじゃない」 赤面して混乱の極みに達したルイズが喚きたてるのを見て、トリッシュは自分が子供の頃を思い出した。 母親が身を粉にして働いていたとき、トリッシュはそんな母親に構って欲しくて悪さばかりしていたのだが、 それでも構ってくれない母親に自分が愛されていないのだと思い始めて、段々と悪さが非行までエスカレートして、 最後には同級生に麻薬を売り付けていたゴロツキの顔をナイフで刺して警察に捕まった。 捕まった自分を引取りに来た母に泣きながら頬を叩かれて、それで初めて自分が愛されていた事を知ったのだ。 自分より年上と知らないトリッシュはルイズがまだまだ甘えたい年頃と思い、その願いを叶えてあげることにした。 「私のは手を付けてないから良いわよね?」 「良いの?ホントに?!」 そう言ってトリッシュが肉を切り分け始めたのを見て、漸く構ってもらえるとルイズの顔が明るくなる。 しかし、モンモランシーのニヤついた顔を見てプライドを刺激されたルイズはそれを拒否した。 「べっ別に頼んでないんだから!勝手な事しないで!」 「はい、あ~ん」 フォークに刺さった肉がルイズの口元に運ばれる。先程まで妄想していた事が現実に起こっているのだが、 母親譲りの気位の高さが災いして逡巡する。 「どうしたのよ?食べないならいいけど」 「ちょ、ちょっと待ちなさい!食べないなんて言ってないわ!」 「じゃあ、あ~ん」 「アアア、アンタがどうしてもって言うから食べるんだからね!」 引き下げられるフォークを見て、結局誘惑に勝てなかったルイズは何故か睨んでいるモンモランシーの前で 赤面しながらフォークに齧り付いた。 「見てられないわ…私、部屋に戻るから」 そのやり取りに呆れたモンモランシーが食堂から立ち去るが、ご機嫌なルイズはそれに気付かない。 「そう言えばマリコルヌはどうしたの?」 「ああ、昼間のことで学院長に呼び出し喰らったわ」 「なに?アイツ何かやったの?」 うるさいマリコルヌが居なくて清々していたルイズであったが、話題がないので共通項であるマリコルヌの事を 何となく聞いてみたが、トリッシュが落ち着いた様子でとんでもない事を口にして聞かなければ良かったと後悔した 「大変じゃないの!どうするのよ?!」 「ヤバイんだったらこんな所で食事してないわ。きっと大丈夫よ」 突然の事で驚いたが、考えてみれば昼間起こった事ならとっくに処分が下されている事だろう。 それに話しによればミス・ロングビルが何とかすると言っていたのだ。何とかなったんだろう。 そう思い込むようにして不安を打ち消し、ルイズはトリッシュと楽しく食事を続けた ルイズがトリッシュと楽しく食事を取っているその様子をキュルケが遠くの席から見守っていた。 「ふう~ん。ルイズにも友達ができたみたいね」 この一年間、ルイズが一人で食事を取っているのをキュルケは不憫に思っていたが、プライドが邪魔をして食事に 誘えないでいた。もっとも誘ってもルイズは着いてこなかっただろうが。 「あ~ん」 横からタバサが大きめに切られた牛ヒレのステーキをキュルケに差し出していた。 「はいはい、二度も引っ掛からないから」 タバサの左手に隠されたはしばみ草が刺さったフォークを取り上げて皿に置くと、代わりにワイングラスを手に取る。 「好き嫌いは良くない」 「ダメダメ。嫌いなものは食べない主義なの」 親友の忠告を無視してキュルケはワインを口に含み、舌で転がすように味わって突然顔が歪んだ。 「フフ…はしばみ草の凝縮汁は……旨かろう…」 キュルケが盛大に吐き出し、アルヴィーズの食堂に虹が描かれた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/887.html
早朝、ルイズ達はアルビオンに向かう準備をしています するとギーシュが提案しました 「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」 地面から大きなモグラ、ジャイアントモールが出てきます ギーシュは「僕の可愛いヴェルダンデ!」と抱きつきます 可愛いかどうかは見る人が見れば可愛いのでしょう ですが地中をかなりの速度で掘り進めるヴェルダンデとはいえ行き先は空中に浮かぶアルビオン 即座にルイズから却下されます 却下したときヴェルダンデは少し鼻を嗅いですぐにルイズを押し倒しました 「ちょ、ちょっと! 何なのよこのモグラ!?」 ルイズは身体をモグラの鼻で突き回され、地面をのたうちスカートが乱れたりします 「いやぁ、巨大モグラと戯れる美少女ってのは、ある意味官能的だな」 「・・・なにをやってるんですか」 途中まで見ていたドッピオがヴェルダンデを止めにかかります ですがジャイアントモールの力は強くキングクリムゾンのパワーでないと止めれませんでした ヴェルダンデの目線はルイズの一部分に釘付けでその目先を見たギーシュがこう言いました 「なるほど指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね。 よく貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ」 「なるほど『土』系統のメイジには役立つ使い魔ってことですか・・・あ!」 押して勝てないと悟ったヴェルダンデはすぐさま地中をもぐってルイズの前に現れます また押し倒そうとしたその時、一陣の風が舞い上がりヴェルダンデを吹き飛ばしました 「なっ、何をするだァ――――ッ! 許さん!」 ギーシュが杖を抜いてわめきます。怒りのあまり言語が田舎臭くなっています ドッピオは瞬時にエピタフを発動し『敵』ではないことを判断しました 羽根帽子の男は一礼をして名乗ります 「僕は敵じゃない。姫殿下より、君達に同行する事を命じられた者だ 君達だけではやはり心許ないらしい。しかしお忍びの任務であるゆえ、一部隊をつける訳にもいかぬ。 そこで僕が指名されたって訳だ」 帽子を取ったその男は自分達より十歳は年上と思われるダンディな髭の男でした 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。 すまない・・・婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬフリはできなくてね」 「・・・婚約者?」 ドッピオは疑いの眼差しでワルドと、ルイズを見くらべます ルイズは確か十六歳のはずだ。まあこの世界なら婚約者というものがあってもいいかもしれません だがワルドはどう見ても十歳くらい年上です。ロリコンか、ヴァリエール公爵家の家名目当てか ドッピオはなんとなく後者・・・何らかのモノがほしいために婚約しているように思えました 何せそのワルドの顔がかつてのボスのように仮面を被った様な顔なのですから ルイズは感動の再会を楽しんだ後、ドッピオとギーシュを紹介しました ワルドは最初、使い魔が人間ということに少々驚いていたようですがそのようなことなど気にしないようでした (・・・この程度なら化けの皮は剥がれない・・・か) ドッピオのみがワルドに対し疑念を抱く中、彼らはアルビオンへと旅立つ事になりました ちなみにヴェルダンデは「行き先はアルビオンだから」という理由で結局置いてく事に ギーシュは本当に別れを惜しんでいましたがその後 「・・・地中を掘ってるなら途中までばれない・・・」 と呟き、出発しました。いたはずのヴェルダンデはどこかに消えていました さて、一行は各自の移動手段を持って急いでいます ルイズとワルドは一つのグリフォンに乗っています。ギーシュとドッピオは学院の馬に 道中、ワルドはルイズに甘いささやきを繰り返します ギーシュは確実に数日かかるということに「ああ、モンモランシー。君に数日も会えないなんて・・・」などと言っています ルイズはワルドの甘いささやきを聞きながら、チラリ、チラリと後ろを見ています 見ているのは大げさな演技をして笑いを取ろうとしているギーシュ・・・ではなくドッピオのほうです ドッピオは無言で馬に乗っています どうやら慣れていないようで自分の能力を使っているようですがルイズには分かりません 自分に対して反応の無さが、ちょっと癪に障る。理由は解りませんが 「やけに後ろを気にするね。まさか、どちらかが君の恋人かい?」 ワルドは笑いながら、しかし真剣な眼差しで言っているようです 「こ、恋人なんかじゃないわ」 「そうか、ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたらショックで死んでしまう」 「で、でも・・・親が決めた事だし」 「おや? 僕の小さなルイズ、僕の事が嫌いになったのかい?」 「・・・嫌いな訳ないじゃない」 ワルドは憧れの人 幼い日、婚約の正しい意味を知らなくとも、彼がずっと一緒にいてくれると思って、嬉しく思っていました 今ならその意味が解り、結婚という意味も解っています アンリエッタの政略結婚とは違う自分達の結婚を ですがルイズは何だかとっても複雑な気持ちになりました いざ結婚となるとどうしても気持ちが違うような気がしてならなかったのです (私は・・・ワルドのことが・・・) 好きか嫌いか、どちらと言われると好きなのでしょう 結婚するのかしないのか、好きなのに結婚が純粋に望めない (・・・今は姫の任務の遂行。ワルドのことは後回しよ!) 自分自身に対する疑念を考えるうちに港町ラ・ローシェルに到着しました ラ・ローシェルは峡谷に挟まれるようにあり岸壁を彫刻のように彫った建物が多数見受けられます おそらく土のメイジが作ったのでしょう。しかし港町なのになぜこんな山地にあるのでしょう 疑惑を持ったドッピオは空を見上げます 「・・・なるほど、空の港と言うわけですか」 それは船でした。空中に浮かぶその船はまさに圧巻 (ヴェルダンデがいけないと言う事はアルビオンは空にあるわけですか) 一行はラ・ローシェルで一番上等な『女神の杵』という宿に入った瞬間 「ハァ~イ、遅かったじゃない」 「きゅ、キュルケ!? 何であんたがここにいるのよ!」 と、いきなりの歓迎を受けました 一階は食堂になっていて、タバサもキュルケと同じテーブルで本を読んでいます キュルケはいきなりワルドににじり寄り 「お髭が素敵よ。あなた、情熱はご存知?」 当のワルドはキュルケを拒絶するように左手で押しやりました 「婚約者が誤解するといけないので、これ以上近づかないでくれたまえ」 そう言ってルイズを見るワルド。視線に気づきつまらなそうな顔をするキュルケ 「婚約者?あんたが?・・・ドッピオー!あなたを追いかけてきたのよ!」 「見事な対応変換だね」 「うるさいわよ。ギーシュ」 即座に矛先を変えてキュルケはドッピオの腕にしがみついてきます いくら追い払ってもやめないことは分かっていますがそれでも一応の望みをかけて追い払います 「ひとまず離れてください・・・大体何で貴女がここに・・・」 キュルケは簡潔に答えてくれました どうやら自分達が出かけるのが見つけたためタバサに頼んでシルフィードで送ってきてもらったようで その本人、タバサもこちらの行動に興味があったようで不満の色は見せていません 船について出来ることがないので宿屋の食堂でドッピオ達がくつろいでいると桟橋へ乗船交渉へ行ったワルドとルイズが帰ってきました 「アルビオン行きの船は明後日にならないと出ないらしい」 仕方ないからそれまでの間この街で時間を潰す事となり、早速ではあるが宿の部屋割りがワルドによって決定され鍵を渡されました キュルケとタバサが同室。ドッピオとギーシュも同室。ルイズとワルドは同室 婚約者だから当然ではあるがルイズはかなり動揺の様子 そしてその夜、ルイズとワルドは同じ部屋へと消えていきました 食堂ではギーシュが自棄酒を飲んでいました 「モンモランシー・・・ケティのことは誤解だって言ってるのに聞いてくれないんだよ?」 「はあ・・・」 ドッピオはその自棄酒に付き合っています。ちなみに肉体年齢ならもうとっくに三十路を過ぎているので酒は飲んでも大丈夫 キュルケはどうしたものかしらと思いつつワインを飲み、タバサは見かけによらず大食いなのか食事を続けています 「しかし、まさかルイズに婚約者がいたとはなぁ……」 「あら、ルイズにも手を出そうとしてるのかしら?」 ギーシュの呟きに乗ってきたのはキュルケ一人でした 「やれやれ、何でそういう勘違いをするかな。単純に驚いただけだよ。 それにしてもルイズにはできすぎた婚約者だな。 女王陛下の魔法衛士隊でグリフォン隊隊長……憧れるよ」 「でもあんな髭ヅラのおじさん、私ならお断りよ」 ここまでルイズ達を追いかけてきた最初の行動はすっかり忘却の彼方らしい。 「まっ、確かに年上すぎるかな。何歳なんだろうね? 三十には届いてないようだが」 「殿方っていうのはね、ドッピオくらいの年齢が丁度いいのよ 青春の真っ盛り、尤も自分が輝くときが一番良いに決まってるじゃない」 「まあ確かに。でもルイズは年齢より幼く見えるからなぁ」 「・・・・・・」 「あら?ドッピオ、もしかして寝てる?」 「酔いが回ったようだね。まったくこのくらいの酒で目を回すなんて情けない」 ちなみに飲んだ量はワイン一本程度です 結局、自棄酒はギーシュがドッピオを部屋に運ぶということで終了し キュルケと食事を終えたタバサも眠りに付くことで任務一日目を終えるのでした
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/482.html
男はどこにでもいる平民の風体だった。 しかしその男の雰囲気は明らかに平民のものとは別格だった。 なんというか・・・悟りを開いた坊主というか・・・そんな感じの雰囲気だ。 「あなた誰? この学園の人間じゃないわね、名を名乗りなさい」 しかし男はその質問には答えず、変わりにルイズを驚愕させる言葉を吐いた。 「彼は・・・ウェールズ君といいましたか、彼はもうすぐ死ぬ運命でした」 「! あんた・・・」 ウェールズ皇太子の死はまだ公にはされてないがキュルケを筆頭に噂として囁かれていた。 まだ噂のレベルではあるが。 しかしこれはそんな瑣末な問題じゃない。明らかに男は確信を持って言っているのだ『死んだ』と。 ・ ・ 「彼は自分の死の・・・いや死後の運命を知った。死んでもなお自分の愛する人を苦しめると知った彼は 岩を・・・運命を受け入れた。岩は彼を・・・二度と利用されぬよう粉々に叩き潰した。決して生き返れないように」 「あは・・・なにいってんのよあんたわけわかんない・・・要するにあなたが皇太子を殺したってことね」 ウェールズ皇太子が岩石につぶされて死んだのはまだ公になってない。知ってるのは城の一部の人間と犯人だけ。 必然的に目の前に不審者はウェールズ殺しの下手人となる。 「それは違う。言ったはずだ、彼は運命を受け入れたのだと。私自身何故ここにいるかは皆目見当がつかない。 考えられるとすれば私は岩が刻んだ相手に説明を行う・・・ただのメッセンジャーなのだろう」 「だから意味が分からないって言ってるでしょ! 人を馬鹿に・・・」 ルイズはその男が何を言っているのかさっぱりわからなかった。 いや全部分からなかったわけじゃない、ただ『岩』と言う単語だけは理解できた。理解してしまった。 「岩は死期の近いものの前に現れる。自らに彫られた運命の力で動くスタンド。 それが『ローリングストーンズ』」 「あ、あんたがなんでその名前を知ってるのよ・・・冗談でしょあいつは私が呼び出した使い魔・・・」 「ふむ、君も同じ名をつけたのか。私はこの世界のルールもしきたりも何も知らない。 君が呼び出したと言うならばそれは・・・不幸か、はたまた幸福か。どちらにしろ君の死期は近い」 「ふざけないでよ! 何で私が使い魔に殺されなくちゃならないのよ!」 「殺されるのではない、元より君は・・・」 「そんな話信じるわけないじゃない。だってあいつは・・・」 ゴトリ その時扉の側で物音がした。 その音にビクッして振り向くと、そこには岩が転がっていた。 ローリングストーン。彼女が昨日契約した使い魔だ。 ただ、今までと違うことは、 ゴトリ いつのまにか『いる』のでなく、 ゴロリ 確実に、 ゴロリ 『彼女』に近づいてきていることだ。 顔などない岩に表情があるわけないのだが今の彼女には岩が笑っているように見えた。 ・・・それも自分と同じ顔をして。 「あ、あ、あ・・・」 この時彼女はやっと理解した。 こいつは使い魔じゃない、使い魔よりもっとおぞましい『何か』だ。 「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 ルイズの絶叫が教会に木霊する。 バン! ルイズはローリングストーンをジャンプで飛び越しものすごいスピードで礼拝堂を脱出し夜の闇へと消えていった。 ゴロゴロ・・・ゴロゴロ・・・ゴロゴロ・・・ 岩もまた彼女の追跡を開始する。 今ここに、生死をかけた鬼ごっこが始まった。 一人残された男は、静かにつぶやいた。 「愚かな・・・運命を受け入れれば楽になれるというのに・・・何故人は運命に抗おうとするのだ・・・」 「あら、まるで殉教者のような台詞ですわね。答えは簡単、それが生きるってことなのよ」 今度は男が驚く番だった。 いつの間にか礼拝堂には赤々と燃える炎とそれに照らし出される二人の女性の姿が合った。 一人は妖艶な美女。一人は本を黙々と読んでいる小さな少女。 「初めまして不審者さん。私の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルスプトー。 生憎あなたは私の趣味ではないので単刀直入に用件だけ済ませますわ」 そう言って彼女はさらに手の上の炎を滾らせる。 「死にたくなければ、あの子の召喚した岩のこと洗いざらい白状なさい。もちろん解決法もね」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/789.html
お邪魔キャラ二匹に耐えてまで待ちに待ったコルベール先生は期待した朗報なんて欠片も持ってこなくて、それどころか負のゾーンを飛び越えるレベルの素晴らしい凶報としか言いようがなくてハゲ死ね。 「それってどういうことですか!」 「いや、申し訳ないとは思うんだが」 「だから申し訳ないとかそういうことじゃなくて!」 「もちろん別の機会は用意させてもらうよ。明日の午後、使い魔召喚の儀式を再び執り行う」 あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば。 うぐがぎごがげどうしようどうしようどうしようどうしよう。何よこれ。どういうことよ。 「は、は、は、犯人は誰なんですか。人生に関わることです。いたずらじゃすみません。げ、厳罰を求め求め求めます!」 「もちろん、見つけ次第適切な処置をするとも」 「見つけ次第って、見つかってないんですか」 「まともに魔法を使ってのことではないらしいんだ。なにやら特殊なアイテムを使ったようでね。まるで魔力が感知できない。調べてはいるんだが」 先生は深くため息をついた。ため息つきたいのはわたしの方だよ。 「せめて目星くらいはついてないんですか。犯人の目星」 「いや……皆目見当もつかない」 嘘だ。目の奥に逡巡があった。わたしは見逃さなかった。コルベール先生には心当たりがある。そしてわたしにも心当たりが一人いる……。 「とりあえず今日は養生しなさい。明日の儀式に差し障りが無いようにね」 先生はありがたくも優しいお言葉をかけてくださったが、それが何の役に立つ? 今わたしがすべきことは何? のんびりと明日が来るのを待つこと? 明日に向けてサモン・サーヴァントの予習をすること? キュルケその他の自慢話を聞いてモチベーションを高めること? 違う違う違う! 否、断じて否である! ぐつぐつと煮えたぎるマイハートを慰撫するためにはおっぱいじゃないやええとなんだっけそうだ復讐あるのみ! くっだらないうんこ悪戯でわたしを傷つけ、ヴァリエールの名誉に泥をかけた阿呆野郎に然るべき報いを与えてやるのだウワハハハハ! ……あ、もちろん法の許す範囲で。いやあ、問題起こして目ェつけられたくないしぃ。えへへ。 そして夕食後。食堂にまで使い魔連れてきてる調子こきはいないだろうと思っていたけどマリコルヌ。あんたそんなちっぽけな蛙を自慢したいの。ああやだやだ両生類とかあっちいけ。 コホン。マリコルヌはどうでもいい。わたしは貴族、ルイズ・フランソワなんたら。 貴族の中の貴族であるわたしは自己を律する術を熟知している。 落ち着いて食事をとり、栄養を補給し、メイドに笑みをくれる余裕さえある状態で……怒りを開放する。 ノックノック。 「誰ですか」 お、部屋にいたか。しめしめ。 「ミスタ・グラモン。話したいことがあるんだけど今お暇?」 扉を開けた先には怯えなり嘲りなり諦念なり侘心なりを予想していたけれど、 「そうですかルイズさん。それはよかったです。私もあなたに話すべきことがあるのです」 この男にはそれらの感情なんて存在する様子もなく、というかそれ以外も存在するようには見えず阿呆。 ふん、すました顔してられるのも今のうちだけだからね。 あんたの悪戯がバレればこの学院から追い出されることは目に見えてるし、あたしの一存次第では国法に裁かれることだってあるんだから。 せいぜい言い訳だけでも聞いてあげようじゃないの。その後で散々こきつかってやる。 ギットギトに汚れた下着でも洗わせられれば己の犯した罪を悔いるでしょうよ。くふふふ。 「コルベール先生から聞いたんだけど」 さりげなく部屋の中を見回してみる。金属製の飾りがたくさん、壁には大きな怪物の絵。なんだか子供っぽい。 ベッドの上には星型模様が散りばめられた毛布、机の上には異世界物の冒険小説。こりゃ本当に子供だわ。 「わたしの召喚は失敗していたらしいの」 許可なくベッドの上に腰掛けた。さっきの復讐の意味を込めていたけど通じちゃいないだろうねこの阿呆。 「サモン・サーヴァントが失敗するのにタイミングを合わせて、煙が舞い上がる中に眼鏡を出してくれた悪戯者がいるんですって。そもそもあの眼鏡はわたしが召喚したわけじゃなかった……分かる?」 「ええ」 「その人は何のためにそんな悪戯をしたんでしょうね。わたしを貶めるためだったのかしら」 「いいえ違いますよルイズさん。私はあなたのためを思ってやったのです」 あはははははははははははははははははははははははははははははスピード解決! 犯人はこの中にいる! いい度胸だ。いい度胸だよこの野郎。 「それは自白と受け取ってもいいのよね?」 「ルイズさん、二十日鼠の背中をなぜてみますか? なぜるととても喜ぶんです」 「ごまかさないでッ!」 拳を叩きつける場所を探したけど見当たらない。ベッドの上じゃ迫力でないしね。仕方なく自分の膝を打っあいたたたた……。 「あ、あ、あなたね、いったい何のつもりで……」 「よくぞ聞いてくれました。私にはそうするべき理由があったのです」 キーシュは相変わらずのおすましフェイスで、心なしか笑みさえ浮かんでいるみたいだ。 わたしの怒りはこれっぽっちも伝わっていない。あの鼻ピアス、引きちぎってやろうか。 「……ふう。とりあえず聞くだけ聞いておいてあげる。理由って何?」 「まずはここから話しましょうか。実は私、異世界からやってきたのです」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/781.html
「ちょっと聞いてるの!さっさとどきなさい!!」 (うるさいわね。そもそも私はメイドじゃないわ) 「ルイズ、彼女は僕の使い魔なんだ。どう扱おうが君には関係ない」 無視されて業を煮やした少女がトリッシュに掴みかかろうとした時、代わりにマリコルヌが答えた。 「アンタの使い魔ですって?ああ、確かそうだったわね風邪っぴきさん」 「ミス・ヴァリエール、僕は『風上』だ。何度も言わせないでもらいたい」 いつもと様子の違うマリコルヌを気味悪がりながらも、ルイズは声を上げてマリコルヌと口論するが 食事前の祈りの時間になったので、トリッシュとマリコルヌを睨みつつルイズは抗議を止めた。 「「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝いたします」」 祈りの声が唱和される中、トリッシュは一人だけ皮肉気な笑みを浮かべながら並べられた料理を見る。 世の中舐めてんの?とマジで言いたくなった。 (これが『ささやか』ねぇ。コイツらにとってのご馳走ってどんなのかしら? 私なんて朝はいつもコーンフレークだって~のに。やっぱり貴族ってムカつくわ) 祈りの時間らしいが別に神を信じてもいないので、とりあえず死んだ母と仲間たちの心の平穏と、 ついでにクソッたれなゲス親父が死んでも苦しみますようにと祈っておいた。 祈りが終わり食事が始まった。グラスにはワインが注がれ周りの貴族たちが食事を開始するが トリッシュは一人だけ手をつけずに料理を見ているだけだった。 (アル中じゃあるまいし朝っぱらからワインなんて飲めないわ。鳥のロースト? こんな重いもの起き抜けに食べれるわけないじゃない) 盛り付けられた見たことがないフルーツを皿にとって食べてみる。思っていたよりも甘く瑞々しい。 (まあまあね。冷えてないのが気に食わないけど。この果物なんて名前なのかしら?) 「ねぇマリコルヌ。この果物ってなんて名前なの?」 耳聡くトリッシュの質問を聞きつけたルイズが、先ほど無視されたお返しとばかりにトリッシュを蔑んだ眼で 見ながら馬鹿にしたように喋りかける。 「あら、平民はそんなことも知らないの?だったら高貴な私が教えてあげるわ。その果物は…」 「それは桃りんごって言うんだよ」 「へえ~桃リンゴォって言うんだ」 桃のような瑞々しさと、りんごの張りが同居してるんだ。と、マリコルヌがそう答える。 「ふんっ!これはアンタたち平民が私たちの為に作ってるんじゃない。そんなことも知らないなんて アンタ、平民以下ね。風邪っぴきの使い魔にふさわしいわ」 (桃リンゴォね。こんな果物は向こうにはなかったわ。じゃあひょっとしてメロンチェリーだとか 椰子バナナとかもあるのかしら?……うわ、キモチわる) 「アンタのみっともないご主人様に感謝することね!アンタみたいな平民がこの『アルヴィーズの食堂』に 入るなんて本当なら一生ないんだから!」 トリッシュはワインの代わりに喉を潤せるものがないかテーブルを探すが、水の入ったボトル一つなく 困っていたときに黒髪のメイドがこちらに来るのが見えたので聞いてみることにした。 「すいません。お茶かジュースはないかしら?水でもいいわ。私、喉が渇いているの」 呼び止められたメイドはトリッシュをきょとんとした眼で見ると、何かを合点したように頷く。 「かしこまりました。ただいまお持ち致します」 メイドはしばらく動かずに、マリコルヌとトリッシュを交互に見比べるとお辞儀をして厨房に向かう。 そのメイドの様子が気に掛かったトリッシュがもう一度呼び止めようとしたとき、マリコルヌが ワイングラスを持ちながら問いかけてきた。 「トリッシュ。君はお酒が飲めないのかな?」 諦めの悪いルイズが、トリッシュをやり込めようとまたも突っかかる。 「あらあら、やっぱり平民ね。あなたにはワインよりも井戸水がお似合いだわ」 朝から酒を飲むほうが変だとトリッシュは言おうとしたが、マリコルヌにはこれから色々と お世話になるのでやんわりと伝えることにした。 「そもそも平民が貴族のワインを飲もうなんて身の程知らずも良いとこだわ!反省なさい!!」 「母が言っていたの。朝から酒を飲むような人間にはなるなって。 それから、そんなヤツとは絶対に付き合うなとも言ってたわ、結婚なんて持っての他ともね」 先ほどのメイドが紅茶を持って現れ、陶磁製のティーカップにそれを注ぎテーブルに置く。 お辞儀をして立ち去ろうとするメイドをマリコルヌが呼び止めた。 「シエスタ、ワインを下げてくれ。それから僕にも紅茶を頼む」 「かしこまりました。ミスタ・グランドプレ」 今度はマリコルヌにお辞儀をして、メイドは立ち去った。そしてトリッシュに疑問が生じる。 (どうしてマリコルヌがメイドの名前を知ってるのかしら?凄く変だわ) 他の貴族たちの振る舞いを見ているとメイドを一人の人間として扱っている訳でなく、あくまで 『メイド』と言う名の奉仕者としか見ていない。マリコルヌが特別かとも思ったが、トリッシュの思考は 少しでも疑問を感じると解消せねば気が済まないように、かつての戦いを通じて変化していた。 「マリコルヌ。一つ質問があるんだけど良い?」 「なんだいトリッシュ?何でも聞いてくれよ」 マリコルヌはトリッシュに向き直りさわやかに微笑む。 「さっきのメイドなんだけど、どうして名前を知ってるの?凄く気になるわ」 (ひょ、ひょっとしてトリッシュは……嫉妬…してるんじゃあないのか?) 無視され続けたルイズはどうにかしてトリッシュに振り向いてもらおうと憎まれ口を叩く 「平民のことはアンタが一番良く知ってるでしょ!そうだったわ、あなた桃りんごも知らなかったわね。 ごめんなさいね。私ったら、あなたが無知で無能だってこと忘れてたわ」 トリッシュの質問を、マリコルヌはトリッシュがシエスタに嫉妬していると盛大に勘違いし、トリッシュは 自分に気があると有頂天になった。勿論、今のキレイなマリコルヌはその感情を表には出さなかったが。 「それはねトリッシュ。君の着ている服を彼女に頼んで用立ててもらったんだよ。 そのとき初めてシエスタの名前を知ったんだ。これからも色々と世話になるしね 名前を知っとかないと困るだろう?」 (だから、シエスタに嫉妬しなくていいんだよ僕のいとしいしと「my Preciouss」) などと心の中で加え、トリッシュの質問にマリコルヌは顔を何とか引き締めて答えた。 「そう、そう言うことね。てっきりアンタの趣味だと思ってたんだけど。でも変ね? この服サイズがピッタリだわ。その…シエスタさん?私と同じスタイルなのかしら?」 「アンタたちいい加減に人の話を聞きなさいッ!何時まで私を無視する気よ!私怒るわよ!!」 トリッシュの疑問に『自分の独壇場だ!』と、マリコルヌは心の中でガッツポーズを取った。 「その服は着る人間のサイズに合うように魔法が掛かってるんだよ。彼女に備品庫から持ってきてもらったんだ。僕も前から目をつけてたんだよ」 「ふ~ん。随分とベンリなのね……ちょっと待って!アンタ今なんて言ったの?! 『僕も前から目をつけてたんだよ』って言ったわよね!確かに聞いたわ!! それにアンタ彼女いないって昨日言ってたわよね!…マリコルヌ…まさか……」 (ドジこいたーーッ。薀蓄たれて好感度UPするつもりが、こいつはいかーん! 変態って思われる!この『失言』を誤魔化すしかない!チクショーーー!!) 「食事の後は授業があるんだ。トリッシュはどうする?外で待っててもいいんだけど」 「私の質問に答えろッ!!マリコルヌーーーー!!!」 「やっぱり授業を一緒に聞いたほうが良いかな?珍しいものも見れるだろうし」 「ねぇ~おねがいだから~~こっちをみてぇ~~わたしをむししないでぇ~~~」 マリコルヌはしばらくトリッシュに問い詰められたが、何とかシラを切り通した。 ルイズ?誰それ?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1556.html
使い魔は天国への扉を静かに開く-1 使い魔は天国への扉を静かに開く-2 使い魔は天国への扉を静かに開く-3 使い魔は天国への扉を静かに開く-4 使い魔は天国への扉を静かに開く-5 使い魔は天国への扉を静かに開く-6 使い魔は天国への扉を静かに開く-7
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1688.html
二度目の虚無の曜日。 今日ばかりは僕も衛兵の仕事が無く、才人もルイズについていく授業がないので、僕たちにとっても休日なのだ。 もっとも才人は一昨日に、授業中に他の女の子のスカートをのぞいているということで、暫く授業に連れて行く事はしないとルイズが言っていたので、既に昨日から休日状態だが。 この二度目の休日を前にして、特にやることのない僕らは、いつものように厨房で朝食を取っていた。 既にご飯抜き期間は終わっているのだが、僕たちの貧相な食事が改善されたわけではないので、未だに食事事情は厨房に依存している。 衣食足りて礼節を知る。それらをキチンと行わないで、頭ばかり下げろと言うルイズは、実に横暴である。 ああいう相手には、絶対に頭を下げたくない。 頭というものは、そう簡単に下げられるものじゃあないんだ。 それはともかく、いつも厨房に世話になって場かりでは心苦しいので、何か手伝いたいと申し出た結果、 「才人、ちゃんと拭いてください。まだ濡れているじゃあないですか」 「そんなこと言っても、うまくできねぇんだよ」 「ですから、コントローラーの十字キーを回すようにして……」 「十字キーって、いったい何ですか?」 「シエスタは気にしないでください」 現在の皿洗いに至っているのである。 正直、迷惑にならず手伝えるのがコレと、後はウェイターしか無かった所為なのだが。 ちなみに皿洗いはシエスタも含め、ほぼ残りの人数全員でやっている。 「こんなもんか?」 「そうそう、そんな感じです」 才人が拭いた皿をこっちに見せてくる。先程までとは、湿り気が格段に違う。 ちゃんと親指を使うか使わないかで、皿洗いの加減は大きく変わるのだ。 ちなみに才人が一番少なく、僕が一番多く洗っている。 「ノリアキさんて、器用なんですね」 「まぁ、これはコツさえつかめればすぐ出来ますから」 といいながら、スタンドを使いながら洗っているので、早くて当たり前なのだが。 「ほんと、ノリアキさんて何でも出来るんですね」 皿洗いが終わった後、他の厨房の人たちの休憩に合わせて、僕らも彼らの話に混じる。 相変わらず、僕は才人と違って距離を取る人間が少なくない。 魔法が使えると勘違いされたままなので、一歩引かれているのはそうだが、それ以上に、やはりスタンドが見えてないのだと考えてしまった時、ひどく冷めてしまうのが原因なんだろう。 そんな僕に対しても、気軽に話しかけてくれたりするシエスタの存在に僕は頭が下がる思いである。 馴染み深い容姿といい、シエスタという女性は人の心を和ませる女の人だ。 側にいるとホッとする気持ちになる。 こんな事を言うのも何だが、恋をするとしたら、あんな気持ちの女性がいいと思います。 それに、オオホーン! オホン! オホーン! ムネ オオホーン! も綺麗ですし。 そういうわけで僕はこの時間、シエスタと他愛のない話をしていたのだった。 ちなみに才人はその間、主にマルトーさん達コック集団に絡まれている。 これも一重に、マルトーさんの才人贔屓のたまものなのだが。 安らぐ時間ではあるが、流石にいつまでも厨房にいるわけには行かない。 邪魔をしてしまっては、せっかく手伝いを申し出たことも無駄になるからな。 僕たちは程々で、厨房に別れを告げ、広場へと向かう。 日課となっている武器の素振りを行うためだ。 この素振りは、意外なことに才人の方が言い出したことであった。 才人が武器を持てば、左腕のルーンが光り出し、身体能力が上昇するのは既に解っている。 それを才人自身が試したいと言い出して、素振りや打ち込みを日課として加えたのだった。 まぁそういうわけで、広場にたどり着いたは良いが、肝心の練習スペースがなかった。 具体的にいうなら、いつものように屯所近辺の広場で練習をしに来た僕らを、使い魔、使い魔、使い魔達の群れが迎えたからだ。 どうやら休みということで、学園の生徒達が使い魔の羽を伸ばさせているらしい。 「サボろうか?」 「言い出したのは才人の方でしょう。……確か、本塔脇の広場なら、人も居ないはずです」 そういうわけで、さぼりたそうにチラチラ広場を横目に追う才人と共に、僕は本塔脇の広場へと進路を変えた。 まぁこの一週間、暇な時間はいつも身体を動かしていたため、その気持ちは分からなくもない。 別に、目的があってこの行為に及んでいるわけじゃあないしな。 たどり着いた本塔脇の広場には、案の定、人影はない。 平日にこんな所による人間なんていうのは、まず居ないからな。当然だろう。 そういうことで、才人は早速デルフリンガーを手に取り、素振りを始める。 素振りをする必要のない僕はこの時間を、いつものように槍を加えたスタンドの動き方を模索する時間として使う事にした。 己を知るという事は、なかなか良い教訓である。 ゲームだって、キャラの癖をよく知っていれば、CPUに負けることなんて無いのだ。 格ゲーの実力だって、連コインした数だけ強くなるのだから。 「ハッ!」 とりあえず、いつものように適当に槍を振ってみる。 流石に某無双のように、いとも簡単に振り回すことは出来ない。 スタンドを使えば身長的には何とか足りるものの、余り速く振り回せないため、コレなら何も持たずに動いた方がマシだ。 どうしても使うというのなら、足場か力点の一つとして使うのが、一番効果的だろう。 穂先をもって、殴りかかるのもいい。 パワーの無いスタンドだが、これならばそこそこにダメージを与えられるだろう。 ただ槍自体が重いので、握っている間は、大きく人型を崩せないのが問題だな。 試しに槍の穂先を握って、標的用に用意した木片へと突き刺してみた。 ガッシリと刺さって、ちょっとやそっとでは抜けそうにない感じである。 これならばつかむ所が無いような場所であっても、ハイエロファントを使った移動が出来る。 その後、色々試した結果、大体一回で最大移動距離は100mぐらいと言う結論に至った。 僕はその距離を身体によく教え込み、槍の穂先を元の柄へと戻す。 と、才人の方もどうやら素振りを終えたようだ。汗をぬぐいながら、僕の方へと歩いてくる。 「どうでしたか?」 「全然ダメ」 才人はそういって、思いっきりため息をついた。 このやりとりも、既に素振りを始めた時から、ほぼ毎日繰り返されているやりとりだ。 しかしいつものように、手元にデルフリンガーがない。 「相変わらず、ちゃんと切れねぇんだよなぁ」 僕は才人が先程から打ち込んでいたモノ……やや太めの木に藁を巻いて、人の胴体くらいにしたものを見る。 その木には、所彼処に斬りつけた後が残っているが、実際に切れている箇所は殆どない。 一カ所だけ、切断寸前まで切られた箇所があるものの、そこにはデルフリンガーが食い込んだままとなっている。 何があったのだろうか? 気になって、僕は才人に尋ねてみた。 「何故、デルフリンガーが刺さってるんですか?」 「抜けなくなったんだよ」 成る程、スッゲー解りやすいッ! この上ないシンプルな説明に、そう思うが、僕が聞きたいのはそんな事じゃない。 聞きたいのは、どういう過程で彼処に刺さったか、だ。 「質問を変えよう。どうやって、あんな抜けないような所まで、デルフリンガーを突き刺したんだい?」 「いや、決闘の時みたいにスッパリいくと思ったんだが、中々切れねえからさ。感情にまかせて思いっきり斬りつけたらさ、腕のコレがパァーって光って、いきなり身体がこう、軽くなってさ、グサーッと……」 「それはつまり、こういう事ですか? 『いらいらしてた自分の心境に合わせて、だんだん力が強くなった』……と」 「Exactly(そのとおりでございます)」 成る程。精神状態に合わせて、ルーンは発光の具合を変えるのか。そしてそれに併せて、才人の力も上昇すると。 そういう所はスタンドに近いな。 改めてコレがなんなのか、少し気になる所だ。 この世界のものであるのは間違いないのだが。 ……以外と、デルフリンガー辺りが何か知っているかもしれない。 「デルフ。何か解りますか?」 そう思ってデルフリンガーに喋りかけるも、返事はない。 そういえば、先程から一度も喋っていなかったな。 何か、喋れない理由でもあるのか? 「先程からデルフが何も言わないのは、コレが原因でしょうか?」 「……多分、そうじゃねえか?」 よく見ると、鍔の先の部分が木に引っかかってカチャカチャ出来ないようだ。 不思議剣の癖に、カチャカチャしないと喋れないのか!? 僕らはデルフの、その良く解らないメカニズムについて考えようかと思ったが、このままでは余りにもデルフが可愛そうなのでやめておく事にした。 「ともかく才人、何とかしてデルフをここから抜きましょう」 「でも、どうやって抜くんだよ」 「ここまで食い込んだのなら、その逆も出来るはずです。僕ら二人で、思いっきりデルフを引っ張りましょう」 「でも握る所、柄しかないぜ?」 「忘れましたか? 才人。僕には『コレ』があります」 そういって僕はスタンドを発現させる。 このハイエロファントを使えば、力を無駄なく引っ張ることに使えるはずだ。 具体的には、才人がデルフリンガーの柄を持ち、僕はハイエロファントで鍔の頭、やや刃がむき出しになっている箇所をつかむ。そして僕はそのハイエロファントの手を引っ張るという方法だ。 普通なら、そんな所は危ないのだが、デルフは錆び錆びの上、スタンドはスタンドでしか傷つけられない。気にする必要もないだろう。 「それでは才人。オー・エス! で同時に力を込めて引っ張りましょう」 「何か綱引きみたいだな。……解った」 僕は一つ、コホンと咳払いをして呼吸を整え、ハイエロファントの触手を強くつかむ。 普通は、生身の人間からはさわれないのだが、スタンドは精神の力。出来ると思えば出来るのだ。 「では」 「オー・エス!」 「オー・エス!」 「「オー・エス!」」 「「オー・エス! オー・エス! オー・エス! ………」」 しかし、未だデルフリンガーは木から抜ける気配がない。 「才人、もっと気張ってください!」 「コレで全力だつーの!」 「呼吸を調整すれば、力がもっと出るはずです」 「つっても、どうすんだよ」 ……確か、記憶によれば…… 「一秒間に十回呼吸を…」 「できるか!」 間違えた。コレはジョースターさんがいっていた、波紋の呼吸法だ。 寧ろ出来るなら、称えてやってもいいと思う。 そうではなくて、誰にでも出来そうなこと…… 「二回、鼻で息を吸って、口から一息に空気を吐くんです。肺の中の空気を1ccも残さないように!」 「…後半のは、関係ねえ気もするが…… 解った!」 これなら、息が荒くなることもなくならず、リズムに合わせて力を入れることが出来る。 僕もその呼吸に合わせて、力を込める。 「……」 「アッ!」 端から見れば、僕はパントマイムをしているようにしか見えないと気がついたのは、引っ張ってる最中に、通りかかった女性……確か学園長の秘書とかいう、ロングビルの奇異の視線を浴びた時であった。 何もない所を、力一杯、息を荒くして引っ張る男というのは、さぞかし奇異に見えるだろう。 いや最悪、構図的に、才人の後ろ姿、さらにいえばお尻を見て、興奮していたように見えなくもない。 何でこんな所に居るんだ! と心の中で毒づく。 「まぁ、人に言えない趣味は色々ありますものね」 そういいながら、ロングビルは僕に哀れみの視線を向けてくる。 止めろ! そんな目で僕を見るな! 何でいつも僕がこういう目に遭うんだ! こういうトラブルは才人の役目だろう! そう思いながらも、僕は弁明の言葉を考えるが、いいものが思いつかない。 そもそもスタンドがらみの事で、いい言葉が思いつくというのなら、元の世界でも疎外感なんて感じるわけがないだろう。 そうこうしている内に、ロングビルはそそくさとこの場から立ち去っていった。 最後まで僕に哀れみの視線を向けながら。 僕と才人は、何も言えずにその後ろ姿を、ボケーッと見送った。 しかし、何故彼女はこんな所にいたんだ? ここは本当に何もない所だ。偶に人が居ないことを利用して、色々やっている人間も居るようだが、彼女もそういう類なのだろうか? まぁ、今の僕には関係のないことだ。 それより! 「才人。少し、その木から離れてください」 「花京院、何をするつもり……」 僕はスタンドの手に精神を集中させる。 それに併せて、破壊のエネルギーが、雫となってその腕からポタリポタリと流れ出す。 「おい! それじゃデルフも巻き込まれるだろ!」 「僕はバカではありません。自分というものを知っている」 僕だって、才人が素振りをしている間に、いろいろとスタンドについて試してきたのだ。 再び腕に集中された破壊のエネルギーに、神経を集中させる。 既にエメラルドスプラッシュを放つのに、十分なエネルギーは溜まっているが、このままでは才人のいう通り、デルフリンガーを巻き込む。 だから僕は、その力をさらに一点に集中させ、よりピンポイントに対象を破壊する姿をイメージする。 記憶の僕にも出来たことだ。僕にだって出来無いことはない。 そして心を落ち着け、その力をエメラルド色の固まりへと変えて、デルフリンガーを挟んでいる木に叩き込むッ! 「『エメラルド・スプラッシュ』!」 拡散ではなく、密集されて放たれた、その破壊のビジョンは、デルフリンガーを挟んでいた木の、上半分だけをボグォーンと綺麗に吹き飛ばす。 一点集中型のエメラルドスプラッシュ。 普段はショットガンの様に拡散させて放つエネルギーを、拳大まで圧縮して打ち出す。 こうすることでより確実に、相手を狙撃(シュートヒム)出来る。 が、まだ集中が甘いせいか、普通のエメラルドスプラッシュより威力が弱い。 もう少し努力が必要だな。 「やっと自由に慣れたぜ。全く相棒、もう少し大事に扱ってくれよ」 「いやぁ、わりぃ。まさかあんな事になるなんて…… すまねえ、花京院」 「いえ、良いんですよ」 そう思うのなら、今すぐ走ってロングビルの誤解を解いてもらいたいものだ。 まあ初めからこうしていれば、誤解なんて起きなかったのだが。 しかし、こうも色々続くと、もう一度素振りをしようなどという気力は起こらなくなるな。 「ともかく、一回部屋に戻りましょう」 「おう」 あのわがまま桃色自称ご主人サマも、今頃、うだうだと管を巻いているのだろう。 僕たちは、一度ルイズの部屋に戻ることにした。 正直に言うと、お風呂に入りたいのだが、夜になりきっていない今は、まだ誰かに目撃される恐れがある。 具体的には、厨房や屯所の人間にだが。 二人で居る所を観られ、また先程の様な誤解をされるのはゴメンだ。 僕は足下に置いておいた槍に手を伸ばす。 「痛ッ……!」 「どうした!?」 僕は突然、右の手のひらに鋭い痛みを覚え、思わず声を出した。 何があったのかと、思わず手のひらを見る。 そこにはうっすらと、切り傷が浮かんでいた。 「傷…? 一体何処で切ったんだ?」 思わず、首を傾げる。 少なくとも、今日、皿洗いをしていた時点では存在していなかった。 だとすると切ったのは、それ以降……つまり、広場に行ってからということになる。 しかし、広場ではずっと槍を持っていたので、切り傷が付くとは思えない。 だとすると、切り傷がつくことがあり得るのは、デルフリンガーを引っ張った時だが…… スタンドが物理手段で傷つくなどということは 絶 対 に あり得ない。 おそらく誤って、デルフの刀身のどこかに触れてしまったのだろう。 「大丈夫かよ」 「ええ、思ったほどの事はありません。驚いただけです。早く行きましょう」 これ以上考えて、才人に変な心配をさせることもあるまい。 いろいろあったことを振り払うかのように、僕は足早に、ここを立ち去ることにした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「そういえば、デルフ」 「あん?」 ルイズの部屋へと行くための、既に登り慣れた階段の途上。 僕は手に持ったデルフに、気になっていたことを質問する。 「才人の左腕のルーン。アレについて何か知りませんか?」 「あ、俺もそれが少し来になってんだ」 僕の質問に、才人が同調する。 今回の事といい、なにやら解らないことが多すぎる。 こういう時は、僕らの辞書的存在である、デルフに聞くのが手っ取り早い手段である。 ちなみに、異世界から変える手段云々について聞いてみたが、流石にそれについては解らないらしい。 デルフは暫く、刀身をふるわせ、やがてカチャカチャと鍔をならした。 「何か、こう、頭の隅にひっかかってんだが…… 随分昔のことでな……」 「刀身と一緒に、頭まで錆びたんですか?」 「うるせ」 「つか、お前、一体何処が頭なんだよ」 「多分、柄」 つか、と接続して訪ねられたので、柄と答える。 才人は何か受けているようだが、ネタにしては余りにも微妙すぎる。 山田君、座布団を持って行きなさい。 と、もうルイズの部屋の前まで来てしまった。 三階だから、そもそもそれほど遠くないからな。 僕は部屋のノブへと手を伸ばす。 すると中から、ルイズとキュルケの話し声が聞こえてきた。 「どうい……味? ツェル……トー」 「だから、ノリ……と……トに丁度良い……を手に入れ…………そっちを……使い……」 「おあいにく………使い……僕の使う道……なら間に合ってるの」 「あ~ら、それなら…………」 なにやら中で揉めているらしい。 そもそもあの二人が一緒で、もめごとが起こらなかったケースを見たことがないんだ。当たり前の事か。 僕は今までのことから、これから起こることを想像し、才人にここを離れることを促す。 「才人、今すぐ回れ右です」 「? どうしたんだよ?」 しかし遅かった。 僕たちが、部屋を去ろうというタイミングで、キュルケがドアを開いたのだった。 「あら、ここにいたのね。丁度よかったわ」 「丁度良いわ。あんた達自身に決めて貰いましょう」 キュルケとルイズが、なにやら僕らの方へと詰め寄ってくる。 見るとキュルケの手には、なにやら小綺麗な槍と剣が。 先程の会話内容から察するに、どうやら僕たちがどちらの道具を使うか、について揉めているようだ。 「ねぇ、ノリアキ? 今、あなたの持っている槍と、私の持っている槍、どちらがステキ?」 そういってキュルケは、僕に槍を渡してくる。 その際、 「あなたの持っている槍、本当は80エキューだそうよ。それに比べてアタシの槍は、正真正銘300エキュー。女も武器も、ゲルマニアの方がいいわよ」 等と言ってきた。 きっとあの店主は「いつもは半額以下で売ってるモンねー」とか思っていたに違いない。 そう思うと、少し、店主に対する怒りが沸いてくる。 まあそれはともかく、僕は受け取った槍をまじまじと見つめる。 うん。成る程。近くで見ればかなり綺麗で、刀身は美しい光を放っている。 続けて、僕の持っている槍を見る。 悪くはないが、アレに比べれば分が悪い。槍だけであれば、間違いなくキュルケの持っている方だ。 しかし、コレは槍を選ぶだけの問題でないのは、キュルケとルイズの様子を見れば解る。コレはどちらを選ぶかということでもあるのだ。 正直に言うと、どちらも選びたくない。 方や高慢ちきでムネもない、自称ご主人様。方やおっぱいは大きいが、気まぐれな六股、いや七股女。 ルイズにするべきか! キュルケにするべきか! コイツは迷うッ! 迷うッ! 暫く二人にジーッと見つめられる中、僕は一か八か、適当に言いつくろってその場を逃れる手段に出た。 「せっかくだから、僕はこっちの赤い扉……じゃあない! この、僕が持っている槍を選びます!」 その一言で、キュルケは驚愕に、ルイズは勝ち誇ったような表情になる。 だが、僕にルイズを選ぶつもりはないので、言葉を続けていく。 「しかしッ! 槍自体で言うのならキュルケの槍を選ぶ!」 その一言に、二人の表情が逆転した。 しかし僕はまだ言葉を続ける。 「だが僕はッ! ルイズにこの槍を買ってくれと頼んだ。だから、この槍は僕自身の手で選んだ槍だ」 自分でも言っていて苦しい話だ。コレで誤魔化せるわけがない。 だから僕はスケープゴートを用意する。 「だから君たちの決着をつけると言うことに対しては公平じゃあ無い! だから、使い魔という以外に負い目のない、才人が決めるのがふさわしいと思う! 僕もそれに決定に従おう!」 「俺ぇ!?」 彼女たちにしてみれば、互いに決着をつけられればそれで良いのだ。 僕は才人を差し出して、二人の出方を見ることにした。 当の才人は、いきなり自分の名前が出てきたことで、おろおろとしている状態だ。 許せ、才人。後でお茶を煎れてやるから。 「下僕はアタシの槍を……」 「あなたの選んだ槍じゃないでしょ? 第一、槍自体はあたしのを選んだのよ?」 「「じゃあ……やっぱり」」 そういって二人は才人の方に詰め寄る。 「「どっち?」」 キュルケが、ルイズが才人を睨む。 才人は一層を混乱した様子で、額に汗を浮かべながら二つの剣を見、その後、僕に恨めしそうな視線を向けてきた。 だが僕は気にしない。 「言っていることが滅茶苦茶」 何時の間にやら部屋から出てきたタバサが、僕に対してそんなことを言ってきた。 というか、部屋にいたのか。 僕はタバサの、その都合の悪い言葉を無視して、才人の様子を伺い続ける。 どうやら才人の方も決まったようだ。 才人は一度、大きく息を吸ってから、答えを出した。 「その、二本とも、ってダメ?」 才人に出来るであろう、目一杯可愛げな表情を浮かべ、そんなことを言い出した。 流石才人! そこに痺れもしないし、憧れもしない。どっちかっていうと引く。 案の定、才人は二人に思いっきり蹴っ飛ばされる。 その顔はどこか、やり遂げたようにすがすがしい。 才人のその勇気ある行動! 僕は軽蔑の意を表す! 「ねぇ」 「なによ」 「そろそろ、決着をつけませんこと?」 「そうね」 「あたしね、あんたのこと、大っ嫌いなのよ」 「わたしもよ」 「気が合うわね」 「……決闘よ!」 まぁ、そんな調子で、才人がどちらの剣を使うかについて、ルイズとキュルケが決闘するということになったのだった。 さて、どうなる事やら。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1445.html
「駄目かな?」 「そりゃ駄目って事は無いけど…」 昨夜タバサに母の治療を頼まれた育郎は、朝の食堂で、食事をとろうとするルイズに、タバサと供に、昨夜の事を話していた。 といっても、タバサが呼び出して襲い掛かった?辺りの話は伏せてだが。 「でも、あんたに治せるかどうかはわからないんでしょ? えっと、タバサだっけ、貴方はそれでも良いの?腕の良いメイジに見せた方が」 「かまわない」 タバサが何時もと変わらない無表情で即答する。 「それなら良いんだけど………そっか…ひょっとして…」 しばらくブツブツとつぶやいたルイズが、一度育郎を見、そしてタバサの方に向き直る。 「ねえ…あなたの使い魔って風竜よね。家に帰る時は使い魔に乗ってくの?」 その質問に頷くタバサ。 「じゃあさ…帰りでいいから、私の家に寄ってくれない?」 「わかった」 「じゃあ家に連絡入れないといけないから、出かけるのは来週の虚無の曜日ぐらいに」 「あらタバサ。珍しいじゃない、ルイズと一緒だなんて…あ、そういう事…」 食堂に入ってきたキュルケが、ルイズ達と話しているタバサに気付く。 「キュルケ…何がそういう事なのよ」 「さーねー、にしても相変わらず空いてるわね、貴方達の周り」 先日育郎が生徒達を返り討ちにした事が伝わってから、食事の際、以前にもましてルイズ達の周りに人がいない状況になっていた。 寄って来るのは、何かとルイズにちょっかいをかけに来るキュルケと、何故かギーシュがモンモランシーと一緒に話しかけてくるぐらいである。 もっとも、モンモランシーはいまだに育郎を警戒しているようだが。 「それで、何を話してたのかしら?」 「えっと…今度の休みにこの子の家に行く事になって」 他人の家の事を話すのもどうかと思い、ルイズはそれだけを告げる。 「タバサの家?じゃあ私も行かせてもらうわ」 「な、なんでよ?」 「あらいいじゃない。タバサ、良いわよね?」 「…かまわない」 「ほらね。っとそれとタバサ、こっち!ちょっとこっち来て!」 「ちょ、ちょっとキュルケ、何処行くのよ!」 ルイズを無視し、キュルケがタバサの手を引いて、食堂の外に連れて行く。 「もう、なんなのよキュルケの奴…」 「友達が心配なんだよ、きっと」 「…そうかしら?」 ぶすっとするルイズを育郎がなだめている最中、キュルケは人目の無いところまでタバサを連れて行き、少し躊躇した後、真剣な目で話し始めた。 「あのねタバサ、あたし昨日貴方がイクローに手紙を渡しているところを見てたの…その、なんて言えばいいのかしのね?あたしね、彼が人間じゃないって知って びっくりしたって言うか…ほら、あたしの二つ名知ってるでしょ? そう『微熱』…でね、実は彼の事いいかなーって思ってたんだけど、 でも彼が亜人って分かって、さすがにどうかと思って諦めたのよ…」 そんな事を自分に話す意味がわからないが、とりあえず黙って聞いているタバサ。 「だからあたし、貴方の想いに気付いた時ショックだったのよ… 確かに貴方に恋をするように勧めたわ。でも貴族が亜人となんて…って」 少し間を開けた後、ガシッ!っとタバサの両肩をつかむ。 「でも一晩考えて気付いたの!私が間違ってたわ!そして感動したのよ! そう!種族の差なんて、愛の前に関係ないって貴方に教えられたの! あ、でも心配しないでね、あたしは貴方の事を応援するから」 「応援?」 何を応援するというのだろう? 「そう、だって親友の貴方が恋をしたんだもの!」 なるほどとタバサは思った。 キュルケは自分が育郎に渡した手紙を、恋文と思ったらしい。 「勘違い」 いつも通り、簡潔にその事を伝える。 「もう、照れなくてもいいのよ!家に帰るのも、親御さんに紹介しに行くんでしょ? 安心して、そりゃ反対されるでしょうけど、一緒に説得してあげるから! そうだわ!いざとなったら私の実家でかくまってあげる!」 しかしキュルケは分かってくれなかったようだ。とはいえ特に害があるとも思えず、さらに言えばめんどくさいので、タバサは一々訂正する事はしなかった。 自分の実家に一緒に来るのだ、その時に分かるだろう。 タバサがそんなことを考えているとは露知らず、キュルケは少し困ったように続ける。 「それでね、彼の全てを受け入れたくなるのは、すっごくよくわかるんだけど…… あのね………その………一度に2本までにしておくのよ?」 「何が?」 「オールド・オスマン、モット伯をお連れしました」 「うむ、入ってもらいなさい」 王宮勅使、モット伯を案内するミス・ロングビルは、顔にこそ出しはしないが、これ以上ないというほど不機嫌だった。 その原因は2つある。 一つは彼女が王家やそれに近しい貴族が、この世で何よりも嫌いだという事。 そしてもう一つは… 「では、王宮よりの命しかと伝えました」 「うむ、ご苦労」 受け取りの書類をオスマン氏から手渡されたモット伯が、部屋を出る前にミス・ロングビルに話しかける。 「相変わらず美しいですな、ミス・ロングビル。今度是非一緒に食事でも」 「まあ、お上手ですこと。お言葉は嬉しいですが、遠慮させていただきますわ」 モット伯のお世辞を抵当に受け流すロングビルは、彼の目が何を見ているか気付く。 その視線の先にはミス・ロングビルの胸があった。 おっぱいである。 その谷間を見る顔は、好色極まりなく。 そしてその視線はねっとりと執拗で、そして容赦がなかった。 視 姦 で あ る そのスケベ面に拳を叩き込みたくなるが、グッと堪える。 ていうか、いつまで見てるんだいこのドスケベ! かれこれ5分はたっぷり眺めているが、それでも全く止める気配がない。 何とかしてくれないかと、オールド・オスマンを見る。 「モット伯…それぐらいにしておきなさい」 期待はしていなかったが、なんと意外なことに、オスマン氏がモット伯を諌める。 「オールド・オスマン…」 「よく見ておきなさい」 よく見る? どういう事かと思っていると、オスマン氏がミス・ロングビルの方を向き、その視線を胸に向けた。 おっぱいにである。 その谷間を見る顔は、モット伯を上回る好色さだった。 そしてその視線はモット伯よりさらに執拗で、そして容赦がなかった。 しかし、そこにはモット伯には無いものも物も含まれていた。 それは愛であった。 おっぱいに対する愛が溢れていた。 その視線には、乳飲み子を見る母の愛にも似たものがあった。 い っ そ 惚 れ 惚 れ と す る よ う な 視 姦 で あ っ た 「おお、オールド・オスマン…」 モット伯が感極まった声をあげる。 「わかったかね?モット伯」 威厳に満ち溢れる声でそれに応えるオスマン氏。 「お見事!私のような若輩者では、まだ貴方の足元にも…」 「なに、君も後10年もすれば…」 「いやいや、私などまだまだ…」 「いやいや、君もなかなかの…」 「うおおおお!ギブギブ!ギブアップじゃ、ミス・ロングビル!」 あぁもう!ハラがたってしたがないね! モット伯が部屋を出た後、早速オスマン氏にキャメルクラッチをかけながら、ミス・ロングビルこと、盗賊土くれのフーケは考えた。 まったくあのスケベ親父、人の胸をじろじろと…そのうち盗みに入るつもりだったけど、いますぐホエヅラかかせてやろうかい!? 「し、しかしこれはこれで尻の感触が背中にぃぃぃぃぃぃぃ! ミス・ロングビル!それ以上力を入れてはいかん!折れてしまう!」 そういえばあのドスケベ、学院のメイドを一人買い入れてたねぇ… 人が足りないとかほざいてたそうだけど、どうせ夜の相手でもさせるつもりなんだろ そう考えると、さらに怒りがこみ上げてくるが、ふとあることに気付く。 そう言えばそのメイド、確かあの坊やと… 密かにほくそえむ。 うまくいけば、このうっぷんを晴らすだけでなく、回りくどい事をする必要も無くなるかもしれない。 「そろそろ許してくれんかミス・ロングビル!? それとも、もしやワシを真っ二つにしてラーメ」 「ふん!」 ゴキャ! 「うっ!」 オールド・オスマンを昏倒させたミス・ロングビルは、部屋を出て、学院の正門へと急いだ。そして、いままさに出発しようとするモット伯になんとか追いつく。 「おや?どうかしましたか、ミス・ロングビル」 息を切らすミス・ロングビルの、上下する胸を凝視しながらモット伯が尋ねる。 「いえ…その、モット伯。先程の食事の件、やはりお受けする事にしますわ」 笑みを浮かべてそう告げる。 「おお!それは本当ですか?」 「ええ、よろしければ今夜にでも」 「喜んで!」 そのやり取りの最中も、胸からは視線をそらさないモット伯であった。 To be continued…… 20< 戻る